横内 さつき(よこうち さつき)


HRドクター。採用コンサルタント × 編集ライター × 主婦の複業ワーカー。 20代で同期の大量離職や超人手不足に苦しまされた体験をきっかけに、人材会社パーソルキャリアに転職。その後スタートアップで採用人事や、時短ママ・フリーランス・外国人向けの人材事業を経験し、結婚を機に独立。 「一人ひとりがその人らしく安心して働ける日本をつくる」ことをポリシーとして、採用人事のかかりつけ医を目指す。


安心なんて存在しなかった社会人3年目まで

現在のお仕事内容について教えてください。


フリーランスとして、3つの軸で活動しています。


メインは採用コンサルタントとしての仕事です。『HRドクター』という屋号で、スタートアップからニッチな建設部品メーカー、葬儀会社に至るまで、幅広い業界の中小企業の採用コンサルティングを行っています。


具体的な支援内容は、クライアント企業の課題によってさまざまです。採用手法のレクチャーやホームページの整備など、採用のキホンのキから始めることもあれば、比較的採用フローが整っている会社には、スカウトやコンテンツ作成などのお手伝いやアドバイスだけを行うこともあります。単なる採用代行業者ではなく、クライアントの採用課題の解決のために頭を使う、『HRドクター』らしくまさに採用のかかりつけ医のような存在でありたいと思っています。


2つ目の軸は編集業。広告制作会社での経験を活かし、オウンドメディアのライティング業務やコンテンツマーケティングの支援も行っています。


それ以外の仕事は本当に多岐にわたります。『スナックさつき』というHR業界を中心とするオフラインイベントの企画やセールスパーソンの育成、事業のディスカッションパートナーなど。また最近は、大学時代から10年以上続けているストリートダンスの小学生向けオンラインレッスンも始めました。


枠にとらわれず、新しい仕事にも積極的にチャレンジしているのは、自分の可能性を狭めたくないから。やったことのある仕事は確かに引き受けやすいんですが、スキルや経験の切り売りになってしまってはつまらない。私は「日本の雇用問題を解決したい」という思いで活動しているので、ひとつのことに特化するのではなくあえて幅広い仕事に挑戦し続けています。

「日本の雇用問題を解決したい」という思いで活動されているんですね。そのような考えを持つに至った経緯を伺えますか?


私自身が雇用問題の当事者として、大変な思いをしたことが原体験になっています。新卒で入社した会社では同期が大量辞職。2社目では未曾有の人手不足を1人で抱え込み心身の限界を味わいました。


私のファーストキャリアは生命保険会社の営業職でした。生保の営業は、絵にかいたような縦社会。チームに課された営業目標達成のため、チームリーダーから怒鳴り散らされるところから朝が始まり、その後は割り当てられたエリアを1日中歩き尽くします。目標未達で帰社するなんて、ありえません。1人、また1人と辞めていき、240人いた同期はたった半年で半数になってしまうほどでした。


転職しようにも、上司から「ろくな結果も出せないお前らなんて、転職なんてできやしない」と言われ続けているので、人間としての基本的な自己効力感がなくなっちゃってるんですよね。ついにコップの水があふれたかのように転職を決意できたのは、入社してから1年1ヶ月後のことでした。


精神的に完全に参っていた私は「次は優しい職場で働きたい」という一心で、ゆったりと働けそうなイメージがあったコーヒー屋さんとケーキ屋さんを中心に仕事を探しました。大手コーヒーチェーンに内定をいただき、転職して8ヶ月後には店長を任されました。


これがまた、本当にしんどい。食品管理から接客、アルバイトスタッフの採用・育成、機器のメンテナンス、トイレ掃除まで、すべての負担がのしかかってくるんです。おまけに人手が足らず、10連勤以上は当たり前というような日々でした。「人がいないって、なんて辛いんだろう」と、また絶望状態に陥ってしまい、一人で店締め作業をしている自分が惨めで情けなく思えてなりませんでした。


1社目でも2社目でも安心して働けず、どん底状態。社会人3年目にして人生終わりかと、本気で思いました。「どうしてこんな目に合わなきゃいけないんだろう」と考え続けた結果、日本の雇用問題という根本的な部分に目が行くようになったんです。


「人をこんなにも辛い状況に陥れる雇用問題を解決しよう。」そんな思いで、2度目の転職を決行。片っ端から人材業界を受けた結果、ご縁があったのがインテリジェンス(現:パーソルキャリア)でした。


一人ひとりが自分の力を発揮して安心して働く。そんな当たり前を実現するのはこうも難しいことなのかと身を持って感じた経験から、その課題を自分自身の手で解決したい。そう思って人材業界に飛び込んだ原体験は、今でも私の軸になっています。


正直、ものすごくメンタルが強い人間というわけでもないので、今でもきついことはもちろんありますし、毎日「疲れた〜」と言いっぱなしです(笑)。それでもくじけずにいられるのは、この使命感に支えられているから。真っ直ぐな性格なのでごまかしたくないし、負けず嫌いだし、正義感も強いから、自分が大変な思いをした原体験を、他の人には絶対に味わってほしくないんです。


「もっと気楽にやれればな〜」と思うことも時々ありますが、これまで愚直にやってきたからこそ、フリーランスになっても初月から仕事に困らずやってこれたのかなと。だから、このままブレずに行くぞという気持ちで日々取り組んでいます。

先のことを考えるより、目の前のことをしっかりやる

フリーランスとして独立した背景を伺えますか?


インテリジェンス卒業後も、Web制作会社や外国人の採用支援会社で働いてきました。5社での就業経験を通じて、採用に関係する仕事は一通り経験し、独立してもやっていけるんじゃないかと思ったことから、結婚を節目に決断しました。社数を刻んでいるために、普通の転職はなかなか難しいかもしれないという現実的な背景もあり、もはや腹をくくるしかなかった事情もあります。


蓋を開けてみると、独立は思った以上にスムーズにいきました。初月から仕事が入り、ありがたいことに今では仕事が多すぎて少し抑えるようにしています。当時は嫌々やっていたことも含めて、これまでの経験がすべて血肉になっていることは、振り返ってみると良かったのかなと思っています。

フリーランスになって1年ほどになるかと思いますが、今後挑戦していきたいことを教えてください。


「一人ひとりが安心して、その人らしく働ける環境づくりをしていきたい。」とにかくこれに尽きます。そのためだったら手段は問いません。一人ひとりの中には、もちろん私も含まれるので、過剰に自己犠牲することなく、持続的に社会貢献していきたいと思っています。


ちなみに、先のことはあえてしっかり決めないようにもしているんです。未定でいい。5年後にどうなっていたいかなんて、絶対に思い通りになりませんし、その呪縛から悩みが生じてしまっては本末転倒です。


「周りがこう言うから」「みんなそうだから」といった理由で、数年先の自分のあり方を決めつけてしまうのは、場合によっては危険ですらあります。「40過ぎたら転職は無理」「専業主婦からの再就職は無理」など、変な固定観念が形成されてしまうリスクがある。そういう何の根拠もない通念をどれだけ撤廃して、多様なキャリアを世の中が受け入れられるかが、雇用問題や人手不足解決の鍵になっていると思います。そんな理由からも、私は先のことを考えるすぎるのではなく、目の前のことをしっかりやるスタイルを大事にしていきたいです。