清川 英恵(きよかわ はなえ)


兵庫県西宮市に生まれ、工業高校デザイン科に進学。新卒で地元商社に就職し、売場提案・パッケージデザイン・グラフィックデザインなどを幅広く手がける。約3年働いた後、大手ゲーム会社に転職。アミューズメント施設のゲームデザインなどを担当。2018年11月に独立し『etomoji』を設立。代表を務める。


「人を喜ばせたい」という想いからデザイナーに

まずは現在のお仕事内容について教えてください。


デザイン事務所『etomoji』代表として、「今日の喜びと明日の楽しみをつくる」をミッションに、グラフィックデザイン、Webデザイン、パッケージデザインなど幅広く手がけています。


また、デザインだけでなく、企画や写真撮影、映像制作など、表現にまつわることは様々請け負っています。


さらにetomojiでは、6ヶ月内であればなんでもデザイン制作を依頼できる定額型のデザインサービスも提供しています。デザインが不定期で必要になるものの、社員としてデザイナーを雇うほどではない企業様向けのサービスです。雇用するわけではないので、社会保険もかからず、退職の心配もありません。また、スポットではなく継続的に仕事をするので、ビジネスの目的をきちんと把握していて、その都度の説明や見積もりの手間がかからないのもメリットです。


わたしにとってデザインとは、チラシやポスター、ロゴなど目に見える制作物を生み出すだけではなく、お客様が目的を達成するためにサポートする手段です。売りたい商品やサービスの潜在価値を把握し、どのように打ち出すか考え、コンテンツを用意する。そして、エンドユーザーが求める情報を整理し、効果的な見た目にデコレーションするものでもあります。

etomojiを立ち上げる前は、商社や大手メーカーでデザイナーをされていましたね。清川さんがデザイナーを志した理由を伺えますか?


わたしはもともと絵を描くのがすごく好きな子どもでした。


デザイナーを志すきっかけが訪れたのは、12歳になる直前のこと。父が会社の事故で亡くなってしまったんです。これを転機に、人の生死について深く考えるようになりました。


そんなとき、ある本に「世の中でもっとも大きなストレスは配偶者を亡くすこと」と書かれているのを読んで。わたし以上に辛い思いをしている母をなんとか助けてあげられないものかと考えるようになりました。その結果、「得意だった絵を活かした仕事で喜びを提供できないか」と思い、デザイナーの道を選択したんです。つくることも好きですが、それ以上に「人を喜ばせたい」という想いからデザイナーになりました。高校はデザイン科に進学し、卒業後、先輩卒業生の就職していた商社に就職しました。

就職後はどんなお仕事を経験されましたか?


商社では、おにぎり成型容器のパッケージデザインや、店舗売り場のディスプレイの提案、カタログづくりなど、本当に幅広い業務を担当しました。ここで多種多様な経験を積めたことが、今の仕事にも活きていると感じます。


商社でデザイナーとしての基礎を学び、次に選んだのが、ゲーム会社でアミューズメント施設用のゲーム機をデザインする仕事です。「多くの人を喜ばせられる仕事は何だろう?」と考えたときに、行くだけで様々な楽しいゲームを体験できるアミューズメント施設が思い浮かびました。しかし、本来人を楽しませる空間であるはずのアミューズメント施設は、当時はいわば「不良の溜まり場」のようなイメージが浸透していて。そんな現状を変えたいと、面接で訴えたのを今でも覚えています。


念願叶って入社することができ、声をあげればやりたいことにチャレンジできる環境で、様々なことを学ばせてもらいました。


特に印象に残っているのが、新しい音楽ゲームの開発プロジェクトです。わたしはゲーム機のプロダクトデザイナーとして、いかにかっこいいビジュアルを作り上げるかというところに注力していたんですが、あるプロジェクトメンバーに「デザインは見た目ををつくるだけじゃなく、商品を売れるようにプロデュースするところまでが仕事だよ」と言われたんですよね。その一言が、わたしのデザイン観を「依頼にしっかり応える職人的な仕事」から、「自分のアイデアでどうやってプロダクトを良くできるか考える仕事」に変えました。


プロダクトデザインの後は、ゲームデザイン・企画・プロモーションなど多岐にわたる職種を経て、その会社で10年以上勤めた後、独立しました。

インハウスデザイナーとして活躍されていたなか、なぜ独立しようと思い立ったんでしょうか?


会社でやれることはすべてやり尽くしたと思えたからです。


そのゲーム会社では本当にやりがいのある仕事に携わることができたものの、意思決定に時間がかかったり、自分ではどうすることもできない範囲で案件が頓挫してしまったり、大企業ゆえに感じる課題も多くあって。今後はスピーディーに自分で意思決定できるような仕事をしていきたいと思い、独立を決意しました。

見た目の良いものをデザインするだけでなく、お客様の目的達成に注力する

etomojiは、「今日の喜びと明日の楽しみをつくる」というミッションがユニークで素敵だなと感じました。このミッションの背景にはどのような思いがありますか?


このミッションも、配偶者を無くしたわたしの母のように、つらいな、しんどいなという経験をしている人が幸せを感じられるようにしたいという思いから生まれています。「今日の喜び」は、「この1日が楽しかった」と思ってもらえるような体験を提供すること。そして「明日の楽しみ」に関しては、未来への期待を持ってもらえるようなストーリーを提案をしていくことを指しています。


このミッションをもとに、ご支援させていただく中で大切にしているのは、第三者視点でお客様の課題を見つけることです。ただ依頼された制作物を作るのではなく、お客様がビジネスを通してどんな目的を成し遂げたいのか。それを一緒に考え、叶えるのがわたしの役割だと思っています。


また、デザインを見た目だけで提案するのではなく、ロジカルな考えを共有し、狙いや、場合によっては目標や結果を数値化することで、お客様にもデザインの効果を実感していただけるように心がけています。「清川に依頼したことでビジネスにストーリーが出来上がった、ビジネスが前進した」と感じていただけることを目標にしています。

最後に、清川さんの今後の展望を教えてください。


さらにいろいろなジャンルに取り組んで、ビジネスの幅を拡大していきたいです。お客様の目標達成に役立てることであれば、必ずしもデザインでなくても良いと思っていて。


今は受託で制作することが多いですが、枠にとらわれず、自分自身の経験を元手にオリジナルのサービスをつくることも視野に入れています。自分自身の辛かった経験や感じた課題を活かして、同じ経験をする人が生まれないように予防したり、支援したりできるサービスを考えています。


これからも、「わたしだからできること」をどんどん増やして、人の役に立てる範囲を広げていきたいですね。わたし自身の人生や人となりに面白さを感じてもらうことで、清川に頼もうと思っていただけるのが理想です。