久保田 夏美(くぼた なつみ)


株式会社千休(senkyu)代表。抹茶が好きすぎて起業。大学生のときにブロガーとして活動し、ITベンチャー起業にエンジニアとして就職。複業をしながら「なまっちゃ」としての活動も広げていき、その後独立。「美味しい抹茶をもっと広めたい」という想いで会社を起こす。抹茶専門ブランド「千休」の運営をはじめとし、「抹茶家」として商品開発やプロデュース、イベント企画から運営まで、抹茶に携わることを幅広く手がける。


「どこでもおいしい抹茶を味わえるようにする」を目指して事業を展開

まずは千休の事業内容を教えてください。


現在の事業は主に3つあります。


1つは、抹茶商品の企画・販売です。ECサイトやポップアップストアで抹茶のドリンクやスイーツを取り扱っています。ご自宅用はもちろん、手土産やギフトとしてもぴったりの商品です。


2つ目が他社の抹茶商品の開発支援。コンセプトやビジュアルをトータルプロデュースしたり、千休とつながりのある抹茶農家さんをご紹介したりしています。


そして3つ目が抹茶卸業です。私の目標はどこでもおいしい抹茶を味わえるようにすることなので、自社の商品開発のみならず、高品質な抹茶を普及させる活動を積極的に行なっています。

現在、初のスイーツ商品である『米粉の抹茶フィナンシェ〜たまゆら〜』も販売していますね!どのように商品の着想を得ましたか?


千休では今までドリンクしか販売していませんでしたが、2019年にポップアップストアでフィナンシェを試験的に出してみたときに、想像以上の反響をいただいて。本格的に商品化していくことにしました。


その際のフィナンシェをバージョンアップさせたのが『米粉の抹茶フィナンシェ〜たまゆら〜』です。抹茶のフィナンシェ自体は世間的に珍しい商品ではないですが、さまざまなフィナンシェを食べていくうちに、もっと抹茶感の強いものをつくりたいと思ったのが開発に至ったきっかけでした。


米粉を使用している点にもこだわりがあります。実は私自身、軽い小麦アレルギーを持っていて。開発当初は小麦粉を使用していたものの、自分が心からおすすめできる商品にしたいと考えたときに、「毎日食べられるものが良いな」と思い、米粉に変更しました。自分の体質から米粉を使用するという着想を得ましたが、グルテンフリーにしたことで結果的に、健康に気をつけている方やダイエット中の方でも気兼ねなく食べられるユニークな商品になったと思います。



抹茶の魅力をSNSやブログで発信。商品を自分の手でつくりたいと思った

なまっちゃさんが抹茶に魅了されたきっかけは何でしたか?


抹茶との出会いは、中学2年生のことでした。この頃から放課後や休日に友達とカフェに行く機会が増えたんですが、もともと紅茶やコーヒーといった飲み物が苦手で。メニューの端にあるようなジュースしか選択肢がなかったんですよね。そんなとき、あるカフェで抹茶ラテを飲んでみたら、あまりにも美味しくて衝撃を受けたんです。そこからは抹茶まっしぐら(笑)。抹茶のドリンクやスイーツを探し求め、時には京都や静岡まで足を運ぶなど、どんどん虜になっていきました。


「なまっちゃ」という名前で活動し始めたのは大学3年生のころです。当時は女子大生ブロガーをしていて、その活動の一つとして抹茶の商品をSNSやブログで発信していました。

学生時代から「なまっちゃ」さんとして活動していた一方、千休立ち上げ以前はITベンチャーに勤めていらっしゃったんですよね。

はい。新卒でITベンチャー企業にエンジニアとして入社して、主にデータ解析系の仕事をしていました。会社に勤めながら複業でブロガー活動を続けていたところ、徐々に「なまっちゃ」としての仕事が増えてきたため、退職してフリーランスになったんです。


既存の企業のPRが主な活動でしたが、発信のお手伝いをしていくうちに「自分でも商品をつくってみたい」という気持ちがふつふつと湧いてきて。そこから抹茶の生産や食品の商品開発について研究し、なんとか抹茶商品の開発への道が見えてきました。ただ、はじめはフリーランスとして商品をつくっていくつもりでした。

フリーランスとして活動しようと考えていたのに、なぜ起業を?


2019年3月に抹茶イベントを開催したことが起業のきっかけです。このとき初めて、お金をいただいて抹茶を提供するという経験をしました。実際に抹茶をビジネスとして扱ってみると、お茶屋や工場は長い歴史と伝統を持つところが多く、コネクションがない新参者にとっては参入ハードルが高くて…。ましてやフリーランスとなると、相手にもしてもらえませんでした。「おいしい抹茶をつくるために、本気で取り組もう」そんな覚悟を決め、千休を立ち上げたんです。


抹茶商品を取り扱う会社に入社することも考えましたが、自分の実現したい商品をつくるには、やっぱり起業が一番の近道だと思いました。

まったく違うITベンチャーから食品業界への参入。実際に起業してみていかがでしたか?


何もかもが未経験で、最初は本当に苦労の連続でしたね...。まず、会社の立ち上げ方を知らなかったので、知り合いの経営者の方に相談しながら一歩ずつ進めていきました。


また、食品系の商品を作るときになにから始めたら良いのか分からず、手探りの状態でした。進める手段が分かっても、個人だと抹茶を卸してもらえなかったり、少量から発注できる工場が少なかったり、次なるハードルが立ちはだかって…。千休の思いに共感していただける農家さんを見つけて商品化に漕ぎつけるまでが一番大変でした。


現在、創業から1年半。はじめの頃は梱包から何からすべて自分ひとりでやっていましたが、一緒に活動してくれるメンバーも増え、ようやく基盤が整ってきたなと思います。

千休の抹茶でほっと落ち着ける時間を提供したい

千休ではどんなところにこだわって商品づくりをしていますか?


お茶に大事な要素は「味」「色」「香り」の3つと言われています。千休の抹茶は、これらをバランスよく取り込むことにこだわっています。


実は一口に抹茶といっても、品種によってワインのように味や香りはさまざまなんです。また、高級なものほど苦味が少なく、スイーツに含まれているような加工用抹茶ほど苦いんですよね。そのため、商品によって使用する品種を変えています。たとえばラテの場合は苦味が強めの抹茶を使用し、ミルクと合わせても程よく抹茶を感じられるように。フィナンシェであれば、火を入れたときに香りが落ちてしまうので、香りが強い品種を使用しています。抹茶は日光やちょっとした刺激で変色してしまうほどすごく繊細なので、味はもちろんですが、色味や発色にも細心の注意を払っています。


また、私たちは「抹茶に興味はあるけれど、自ら飲むほどではない人」にも抹茶の魅力を知ってもらいたいと思っているので、パッケージにも工夫を凝らしています。老舗の抹茶ブランドはシックで昔ながらの包装が多いんですが、今まで抹茶を飲む機会が少なかった若い方でも思わず買いたくなるような、スタイリッシュでありながら可愛らしいパッケージデザインを意識しました。抹茶に対するハードルを下げることで、コーヒーやチョコレートのように抹茶をプレゼントしたり、自分へのごほうびとして気軽に買ってもらえるような文化をつくっていきたいです。

千休の抹茶をどんな方に楽しんでほしいですか?


忙しい毎日を送っている人ほど飲んでほしいですね。抹茶にはリラックス効果のある成分テアニンが含まれているので、飲むと落ち着くことができるんです。ハードワーカーな人は急に体調を崩してしまうことも多いので、一息ついて心身を整えるために千休の抹茶を飲んでもらえたらと思います。


今は自宅で仕事をする人も多く、仕事とプライベートの切り替えが難しくなりがちなので、千休の抹茶がリラックスできる時間を提供できたら良いですね。

最後に、今後の展望を教えてください!


抹茶には、人の心を豊かにする力があると信じています。もっとたくさんの方に千休の抹茶を飲んでもらうことで、忙しい人にひとときでも心の余裕を提供することができたらこの上なく嬉しいです。


現状では茶葉の茎の部分は廃棄されてしまうので、すべてを有効活用できるように脱臭作用を生かした商品なども構想しています。また、将来的には店舗も出して、みんなが癒されるような居場所づくりがしたいと考えています。


現在は、2020年8月から新宿マルイにある体験型店舗b8ta(ベータ)にて『米粉の抹茶フィナンシェ〜たまゆら〜』を出品しています。気になる方はぜひ足を運んでみてください!